負け犬の遠吠え ~誕生~
『スロットやめたいな』
スロットハウスに向かう道中で、彼ははふと呟いた。
離婚
借金
犯罪
逮捕
鬱
そして、それら全ての最大の原因であるギャンブル依存症…
恐らく、高校生位までの彼を知る人間で、43歳になった彼が、このような言葉に関わる人生を送っていると言い当てられる者は皆無だと思う。親、兄弟、親戚、教師、友人、また彼自身も…
彼は神戸で、サラリーマンの父と専業主婦の母の間に産まれた。5つ上には兄がいる。経済的にも環境も、至って普通の家庭であった。
彼自身も、多少人見知りはあったが、問題のある子供ではなく、周りの子ども達と同じように順調に育って行った。
4歳の時に、親が家を購入した為に、隣の明石市という所に引越しした。所謂新興住宅地というやつで、周りの家族も同じような年齢層で、親同士も、また子ども同士もすぐに仲良くなり、馴染むのにそう時間はかからなかった。
小学校から高校までも、それまで同様に、特異なことも無く過ぎていった。成績は学年の上位10パーセント程をウロウロしている、所謂「中途半端な優等生」といった具合である。授業態度は真面目、友達もそれなりにいて、煙草は吸わないし、いじめたりいじめられたりもしない…学校が終わるとクラブ活動(テニス部 )をし、その後塾に通い、寝て起きて、また学校…そんな毎日をそれなりに楽しんでいた。
好きな女の子には何度か告白したが、全部断られ、遂に高校卒業まで彼女という存在がいた事はなかった。
今思えば、反抗期らしい反抗期も、彼にはなかったように思う。それは、兄の反抗期の時の母親に対する態度を見て嫌悪感を感じていたからなのか、単純に父親が怖かったからなのかは分からない。ただ、反抗期はなかったが、全て親の言いなりという訳でもなく、自己主張はわりと強い子どもであったようだ。
兎に角、親や教師から見てもそれほど手のかからない、勉強もスポーツも適度に出来る……そんな彼だった。
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