負け犬の遠吠え ~精算3~
さやかとは、ほぼ毎日会っていた。仕事終わりにはご飯を食べに行き、休みの日は近場へドライブに行ったり…でも、あまりお金は使わなかった。どんな事でも喜んでくれる。金のない彼は、本当に嬉しかった。
さやかと毎日会っているので、パチンコの頻度は減っていたが、やめてはなく、給料日前は辛かった。
当時は、初代北斗が流行っていて、「北斗揃いやのに単発やった」「昇天させたった」などとはしゃいでいた思い出がある。どこの店にもあったので、設定関係なく、色んな店で打っていた。近所の店は、増築して『北斗の館』として、増築部分を全台北斗にしていた。
デート代、生活費、パチンコ代、借金の支払い…正直苦しかった。誰にも知られたくなかったが、誰かに助けて欲しかった。借金の経験のある人の思って多くが経験している感情である。
彼はさやかならなんとかしてくれるかも知れないと思った。本当に優しく、人を思いやれる女性だったし、自分のことを本当に好きでいてくれていると彼は感じていたから。
また、さやかが妊娠した時、相談に乗ったから…
『さやかが困っていた時に助けたから、俺が困った時も助けてくれるだろう。嫌とは言えないだろう。』
もし振られたら…なぜかその時はそんなことは全く考えていなかった。さやかがお金を持ってなかったら仕方がないとは思ったが。
ある日のドライブ中、思い切って相談した。
「さやかに言わなあかん事があるんやけど」
『どうしたん』
「実は、俺、借金があって」
『………』
『いくらあるん?』
「55万」
『なんで私に言ったん?』
「今まで誰にも話してなかったけど、苦しくて。ごめんなさい。」
『どうしたいん。』
(ん、ひょっとしてなんとかしてくれるんかな?)
「いや、話を聞いてくれただけで少し軽くなった。ありがとう。」
(振られる事はなさそうかな)
『60万円位貯金がある。今から一緒に返しに行こか』
「……えっ、そんなつもりで話したんとちゃうから」
『返されへんのやろ?これから私に返してくれたらいいから』
「ありがとう。」
『スロットするなとは言わんけど、借金してまでするのはどうかと思う。』
「ごめんなさい。」
という事で、すぐに業者に電話して正確な額を教えて貰い、一緒に業者のATMへ行き、完済した。いや、してもらった。
『助かった…』
『もう借金はやめよう』
肩から重たいものがすっと降りた。今まで経験したことが無い爽快感だった。
さやかとは、お金の貸し借りの関係になったが、交際はそれからも前と変わらず順調に続いた。変わった事と言えば、デート代がほぼ割り勘になった事くらいだった。
さやかと健二はどちらともなく結婚を意識するようになった。