負け犬の遠吠え ～離婚～

次の日、さやかの両親に呼ばれ、朝からさやかの実家を訪ねた。さやかは仕事で、子ども達は保育園でいなかったので、さやかの両親と健二で話した。

ここでひとつ、この頃の健二のメンタルはボロボロで、記憶もところどころ曖昧で、覚えていない事も少なくないことを断っておかなければならない。

さやかの両親が言うには、今回の件は、健二の仕事(メンタル)の事だけが原因ではないという。健二のスロット癖の事や、結婚しているにも関わらず風俗を利用していた事、休職期間中に浮気をしていた事など、さやかにとってかなりのストレスだったのだという。

まさかそんな事までさやかが両親に話しているとは思わなかったので驚いた。恥ずかしいのと、とにかく横になりたいのとで、早く帰りたかった。

全部事実なので素直に認め、謝罪したかどうかは分からないが(多分してないと思う。そこまで頭が回っていなかった。)、さやかが離婚したいと言うなら仕方がないと言った。

健二にとってはどっちでもよかった。子ども達と離れてしまう事は寂しく、また申し訳ない気持ちしかないが、さやかについてはもう顔を合わせたくなかった。

健二の自分勝手な行動(風俗  スロット  浮気  転職)からこのような事になってしまったのだが、健二の中では、メンタルが壊れて動けなくなった時のさやかの冷たい対応が許せなかった。スロット、風俗については完全に健二に非があるが、浮気については、ただ話を聞いて欲しくて出会い系サイトをしていたら偶然同じような境遇の女性に出会い、話しているうちに何となくそういう関係になったので、自分だけが悪い訳ではないと思っていた。それに、早く別れたい一心で過去の事まで持ち出すさやかの態度がとても浅ましく感じた。あと、いつの間にか貯金も全て引き出していた。

そんな思いもあって、早くこのゴタゴタを終わらせたかったが、毎日の様にさやかの母親から電話があり、別れたいのか復縁したいのかなど、どうでも良い意思確認をされたり、さやかと母親が荷物を取りに家に来たりしてなにかとバタバタしていた。

睡眠については、不思議な事に、別居後暫くすると、徐々に眠れるようになってきた。休職している会社は退職し、通院しながら就職活動が出来るまで回復した。夏には近くの個人経営のデイサービスに就職が決まった。給料は高いとはいえず、ボーナスも退職金制度もないような所だったが、また一から頑張ろうと思った。

離婚する事については、お互いの親も含めて合意したが、財産分与など、細かい所を詰めなければならなかった。まあ、財産と言っても、30年以上ローンが残っているマンションと、健二の父が7割程お金を出してくれた車位で、分与するという事は借金を背負う事になるのだが、さやかや両親は何故か拘っている。

何度か話し合いをしたが、話がまとまらず(健二には相手が何を望んでいるのかが理解できなかった)、また健二の体調も万全でなく、転職したばかりということもあり、調停する事になった。

2度、家庭裁判所へ行き、無事離婚は成立した。翌年の2月であった。

あれだけお互いに好きで、毎日の様に会って、結婚して、子どもを二人授かり、マイホームを買い、新車も買ったのに、二人目が産まれて半年程で別れ、お互いに顔も見たくない程に嫌いになる……

片やシングルマザーになり、もう一方は嫁さんに逃げられた情けない中年オヤジになり…

「この先俺はどうなるんやろう？」

一人きりの自宅で、ふと健二は思った。