負け犬の遠吠え ~転落2~
消費者金融を利用するのは10年以上振りだった。
罪悪感、緊張感、バレる恐怖感…様々な感情が交錯したが、今日食べるものもない、タバコも吸えない、そんな切羽詰まった状況だったので、迷いは少なかった。
モ○ットを選んだ理由は、在籍確認が、必要書類の提示で代用できるからだった。
※記憶が曖昧なので、在籍確認については実際と異なる可能性があります。
借金をする上で、在籍確認で会社に電話をされる事には、多くの人が抵抗を感じていると思う。会社に借金をしている事が発覚すると、仕事がしづらいし、なにより会社に居づらいからである。健二も出来ればそれは避けたかった。
ネットの噂通り、身分証と給料明細で審査に通り、50万円の枠を貰えた。
嬉しくて、タバコを買い、肉を買い、お菓子も沢山買った。そしてなによりも、スロットを心ゆくまで打った。
自分のお金じゃないのに。
『ご返済は、月12000円から』
みたいなキャッチコピーに騙されて、これから殆ど利息のみの支払いで、完済出来ないのに。
完全に気持ちが大きくなり、50万円は2ヵ月程で使ってしまった。
「お金がなくなった。どうしよう」
「また借りよう。」
在籍確認は嫌だけど、そんなことも言ってられない。
違う大手消費者金融に借りた。
50万円。前回と併せて100万円。今まで、100万円なんて健二は貯金したことはなかった。返せるはずはない。薄々は気づいていたが、止まらない。
これも数ヶ月でなくなった。
もう、総量規制に引っかかるのでこれ以上は借りられない。
という事で、次は銀行カードローンから借りた。2社から計100万円である。合計200万円。加えて、お金がない時は、クレジットカードで買い物をしていたので、クレカの残も50万円程ある。計250万円。
支払いは月8万円を超えていた。健二の手取りは20万円に少し満たない位だったので、住宅ローンや携帯料金、水道光熱費、養育費、税金を差し引くと、2万円位しか残らない。なので、返済しては借り入れを毎月繰り返していた。所謂自転車操業である。
タバコは吸いたい、ご飯もお菓子も食べたい。酒は飲まないが、たまには居酒屋にも行きたい。もちろんスロットにも行きたい…
スロットは好きだが、もう行っては行けない状況である事は理解していた。だが、何とか所持金を増やさないと日常生活に支障が出る。毎回切羽詰まった思いで通っていた。
借金の返済以外の支払いは後回しにして、勝ったら支払うという状況だった。支払えなかった分は翌月の給料から支払う…
状況は悪化していった。職場では平静を装っているが、頭の中はお金の事でいっぱいであった。
父には年に3回ほどお金を貰っていた。名目上は、住宅ローンのボーナス払い分が足りないという事だが、出張に行く、給料が減ったなど、うそをついて貰った事もあった。父は、小言を言いながらも、いつも健二が希望した金額より少し多めに振り込んでくれた。
健二の父については前にも少し話したが、健二がメンタルを壊した時、一番心配してくれた。昔の父からは想像出来なかったので、はじめは驚いたが、本当に感謝している。普通は恩返しをする年なのに、心配をかけ、援助もしてもらい、嘘もつき…最低な息子だと自覚している。もう70を超えていて、親孝行できる時間は限られているが、せめて一度は親父の喜ぶ顔が見たい、親父を喜ばせたい。これは健二の本心である。現状は真逆であるが。
借金は減らない、食べるものもない、支払いは滞り、時々督促の電話もくる。携帯も停ま る事が増えてきた。もうどの借金も限度額一杯で、増額も断られた。給料日まで1週間以上あるが、残金は3000円程。前月の各種未払いを次の給料で支払うと…完全に破綻した。
「もうあかん。どないもならん。」
健二は債務整理をする事にした。