負け犬の遠吠え ~犯罪~
銀行口座…
指輪、本、車…
これまで健二は色んな物を売り、その場しのぎをしてきたが、口座が売れるなど、考えた事もなかった。
だが、たどり着いたサイトには具体的な銀行名や買取価格まで記載されていた。
「とりあえず、今をしのげれば!」
安易な考えでサイトに記載されている連絡先にメールしてみた。
暫くして返信があった。
『40000円です。』
半信半疑ではあったが、売却する事にした。
2時間程、手続きや確認作業などをした後、健二が指定した口座に40000円入金された。
「ホンマに売れた。」
2ヵ月で、4つの口座を売却した。売った後、口座売買について調べた。
違法行為、つまり犯罪であった。
「ついにここまで落ちたか…」
何とも言えない気持ちになったが、今の時点で、特に変わった事はないので、深く考える事はなかった。
それから3ヵ月後、健二のスマホに見慣れない着信があった。
市外局番から、関東方面からの電話だった。
折り返すと、口座を売った銀行からであった。
『確認したい事がありますので窓口にお越し下さい』
との事で、日時を決め、行くつもりだったが、当日面倒になり、行けないと電話した。
『では口座を強制解約します。』
と言われた。
まずいことが起こっている様な気がしたが、それからしばらくは何事もなかった。
翌月、2つの銀行から封書が届いた。
『口座を凍結します。』
健二はようやく事の重大さを理解した。
更に翌月、ポイントサイトから振り込まれたお金を引き出そうとするとエラーになった。この口座は、売った口座代金の振込先でもあった。数日後、その銀行から封書が届いた。凍結する旨、書かれていた。
更に翌月、一番はじめに売った口座の銀行から電話があった。
『20000円の組戻し依頼が来ています。』
という内容であった。
「オークション詐欺に使われたかな」
健二は何となくだが理解できた。20000円は振り込んだ。
『80000円の組戻し依頼が…』
『5500円の組戻し依頼が…』
それから毎日の様に電話があった。
そんなに沢山払えるはずはなかった。
組戻し依頼の電話は、ある日を境にピタリと来なくなった。
理由は分からないが、とりあえず良かった。
健二はほっとしていた。
それから一月後、父から電話がかかってきた。
『ワシの所に警察から電話があったぞ。お前宛に』
「とうとう来たか…」
終わりだと思った。不思議と焦りはなかった。
「悪いことをしたのは自分だし、これからどうなろうが仕方がない。あのお金がなければ生活出来なかった訳だし。」
そう思った。
父には適当に言い訳して、教えられた番号に電話をした。
刑事は近くまで来ていたようで、10分程で自宅へ来た。